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一月三日

湊がお正月に大崎の実家に行く話

この季節になると東京といえども十度以下になる日が多くて、俺はマウンテンパーカーの前のジップをしっかりと上まで閉めたうえで首元にぐるぐるとマフラーを巻いて出かける。 大晦日から新年二日まで続けて勤務日だったが、三が日の終わりに漸く休むことができた。街を歩くと軽快なポンポポンプワーいう琴で奏でられるお正月定番の音楽(春の海というらしい)が聞こえる。商店街のあちこちには門松が飾られていて、街頭に刺された白とピンクのもち花が北風にゆらりと揺れている。 お正月は好きだ。いや、年間行事なんてどれも楽しむためのものだから、嫌いな行事なんてないんだけど。その中でもクリスマスからお正月に掛けての浮足立つ感じは特に好きだった。こうして街中を歩いていても、駅で仕事をしていても、晴れ着を着た人や、帰省するための大きな荷物を持った人、お休みなのか家族総出で出かける人など様々な往来が見られる。結局のところ、俺は人の暮らしが好きなのだ。駅は、いつも暮らしの中にある。 今年は出勤日が年末年始に被っていたし、浜松の実家に帰るのは二月になってからで良いかと思っていたところ、大崎くんから新年のお誘いがあった。 「湊さん、実家に帰らないなら僕の家でおせちを一緒に食べませんか?」 「楽しそうだけど、良いの? 親戚とか集まるんじゃない?」 「おじいちゃんのお家は元旦に行くので、三日には暇です!」 親御さんにもちゃんと先輩が来るって伝えておくんだよ、と言っておいたのできっと大丈夫かな。大崎くんのお母さんなら、大らかだから問題ないと思うけど。 行きがけに大崎くんのお家に持っていく手土産を購入しようと百貨店に寄れば、今日から初売りだったようで混雑していた。お年玉は……さすがに用意しなくて良いだろう。 マンションのエントランスに着いて、部屋番号を押そうとインターフォンの前に立ったタイミングで自動ドアが開いた。もこもこの半纏を着た大崎くんが出迎えてくれる。 「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!」 「あけましておめでとー、新年から元気だねえ」 「えへ、荷物持ちます!」 差し出された両手に、手土産で買った焼き菓子の紙袋を下げてあげると大崎くんは嬉しそうに袋を覗き込む。 「焼き菓子だよ、お家の人と食べてね」 大崎くんのお家に入ると、玄関にはお母さんが育てているグッピーの水槽がある。エアポンプからぽこぽこと小さな泡が出ていて、よく手入れが行き届いている。大崎くんのお母さんはマメな人だ。 「ただいまー!」 「お邪魔します」 俺たちがそう言うのと同時くらいに、奥からお母さんがうさぎを抱えて出て来る。年始の挨拶をして、手土産のことを伝えるとお母さんは目を細めて笑った。大崎くんのお母さんは、大崎くんと同じ目の形をしている。 「湊さんはお客さんなので、ここで座って待っていてください!」 いつもはダイニングテーブルに通されるが、今日はテレビの前に置かれたこたつに座椅子が用意されていた。 「いいねえ、こたつ出したんだ」 「こたつって、温かくて眠くなっちゃいますよねー」 そう言う大崎くんにお母さんがダメよ、こたつで寝ちゃ、と声をかける。俺も大崎くんと一緒になって、はーいと返事をする。 大崎くんがキッチンから、小さな重箱を持ってきてくれた。蓋を開けると、おせち料理が二人分ほど詰められていた。大崎くんのお母さんは「出来合いのものばかりなんだけど」と恥ずかしそうに言ったが、こうしてお正月の準備をするだけでも充分にすごいことだ。 「湊さんとも食べるって言って、わざわざ小さいのに詰め直したのよね」 お母さんが困ったように笑う隣で、大崎くんは自慢げに胸を張る。 「湊さんとお正月をやりたくて、僕が準備しました!」 この昆布は僕が買ってきて、これは僕がお母さんと作った栗きんとん……と一つずつ指さして説明してくれる。その様子が愛らしくて、うん、うんと丁寧に相槌を打つ。 大崎くんのお母さんは、そんな俺たちを見て嬉しそうだった。お茶でも入れるわね、と言って立ち上がったその横顔は、隣で笑う大崎くんによく似ていた。