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僕らにとっては全問正解

着せ替えアンソロジー再録

「そういえば湊さんの学生時代って、制服は学ランでした? ブレザーでした?」 「俺の高校すごい自由で、私服登校だったんだよねー」 そう言いながら湊さんは衣装ラックに掛けられた様々な制服を物色する。セーラー服、学ラン、ブレザー、それぞれ色や形も違うものが数着ずつ用意されていた。 「俺、クイズ番組って初めてだからすごい楽しみなんだ」 「僕も、一個も答えが分からなかったらどうしようってドキドキしちゃいます」 今日はゴールデンタイムに放送されるクイズ特番の収録だ。学校をコンセプトとした番組なので、出演者は各々制服を着用する演出になっている。制服衣装は楽屋にたくさん用意されていて、出演者が好きなものを選んで着用するというのもまた、この番組の人気要素だった。控室にはもう僕と大崎さん、湊さんしかいなく、他のユニットメンバーたちはもうスタジオに行ってしまったらしい。 「他のみんなは何にしたんだろう、羽振さんって学ランとか似合いそうだから、僕、羽振さんが学ラン着てるところが見たいなあ」 「烏鷹さんも学ランがよく似合いそうですよね、早く準備してみんなと合流したいです」 大崎さんとお喋りしがら準備する。僕は濃いネイビーの学ランにして、大崎さんはグレーのブレザーを選んでいた。話しながらボタンを掛けるから、大崎さんはワイシャツのボタンを掛け違えている。大崎さん、と呼びかけて手招きすると、彼はニコニコしながら近付いてきた。 「ほら、またボタンを掛け間違えてますよ」 そう言うと大崎さんはちょっと恥ずかしそうにしながら、自分の胸元を確認する。僕は二番目と三番目が入違ってしまったボタンを一度はずして、正しいところに掛け直してあげた。 「ありがとう! 僕、ボタンよく間違えちゃうの、ちょっと恥ずかしいや」 「大丈夫ですよ、間違えても僕たちがちゃんと直してあげますから、ね、湊さん」 そう言って湊さんの方を見ると、ちょうどセーラー服のリボンを結ぼうとしているところだった。 「わあ! 湊さんセーラー服だ!」 「えへ、いつもの衣装ともあんま変わらなくない?」 そう言ってその場でくるりと周り、スカートのプリーツをふわりと揺らす。こういうかわいい服を着ている姿自体は見慣れていたが、湊さんの家以外で見るのは初めてだったので、なんだかひどくドキドキしてしまう。 「それで出演なさるんですか?」 「うん、かわいくない?」 「それは、かわいいですが……」 スカートから紺色のハイソックスまで、すらりと白い脚が伸びる。一般的な成人男性とはほど遠い、手入れされたすべすべの太もも。よく知っているそれをこんな形で控室の中で見るなんて、変な気分だった。 ちょっとこれでテレビに出演するのは、良くない気がする。どうやって引き留めようかと考えていると、コンコンと楽屋のドアがノックされた。親しくないスタッフの人にこれを見られるのは避けたいと思い、急いで対応しようとしたが、それより早く湊さんがドアを開ける。 「そろそろリハが始まるぞ……お前、それで出る気か?」  学ランを着た羽振さんが目を丸くして立っていた。僕らの全てを知っている人だったので、ちょっと安心した。 「ほら、湊さん、やっぱりかわいすぎますからセーラー服は僕たちだけの時にしましょう? そうだ、今日は僕とお揃いで学ランにするのはどうでしょうか」 「お揃い、良いね!」 わたわたと着替えだす湊さんを見て、大崎さんもブレザーを脱いで着替え始める。 「それなら僕もお揃いがいい!」 「おい、お前ら、もう時間ねェんだからよォ」 そう言いながらも羽振さんは大崎さんの着替えを手伝ってくれる。僕も湊さんの脱いだものをハンガーに掛けたりするのを手伝った。 「わーい、みんなでお揃いだ!」 大崎さんが嬉しそうにしている。黒い学ランに金色のボタンが光って、きれいだった。端正な顔立ちにシンプルな装いが良く似合う。 「大崎くんも北くんもかわいいよ、今日は一緒にいっぱい頑張ろうね!」 学ランに着替えた湊さんが、僕と大崎さんの腕をぎゅうと抱き寄せてくる。セーラー服もよく似合っていたが、学ラン姿もとても素敵だ。それぞれ黒だったり、ネイビーだったりと少しずつ生地の色に違いはあるが、みんなでこうして同じ学生服を着るのは不思議な感覚だった。いつもの駅員制服ともまた違っていて、まるで僕らはクラスメイトのような。 「嬉しいな、みんな同じクラスだったらこんな感じだったんですかね?」 大崎さんがそう言うと、湊さんがキャアンだなんてはしゃいだ声を上げるが、すぐに羽振さんに小突かれる。 「湊お前、コイツらとは教師と生徒ほど歳離れてるだろ」 「ひどおい、三十五歳は半分にしたらまだ十七歳ですよ」 「年齢を半分にする意味が分かンねえのよ」 羽振さんの言うことは尤もだと思いつつも、僕はただ柔らかく笑うだけに留める。このかわいい人たちを甘やかしたいから、多少のことには目を瞑ろう。 クイズ番組の収録では、大崎さんが珍回答をたくさんして「向上心ある残念イケメン」としばらく世間で話題になった。本人は「また僕、何かしちゃいましたか?」と気にしていたが、みんなが大崎さんのことをかわいいと思ってるんですよと言うと、少し照れたように笑っていた。